
1. 背景と動機付け
1.6 音による非接触・非破壊検査技術の利点と制約
ここで扱う「音による非接触・非破壊検査」とは、対象物に傷や劣化が起きたときに生じる微小な音の変化や、高周波の超音波を利用して状態を調べる方法の総称である。対象にダメージを与えたり分解したりせず、そのままの状態で異常の有無や兆候を捉えられるのが特徴で、運転中の設備を止めずに監視・点検がしやすいのが動機付けの中心となる。中でも代表例は二つある。一つは「空気中を伝わる超音波」を使って漏れや放電などを探す方法で、配管や圧縮空気系の微小な漏れを素早く見つけるのに向く。もう一つは「アコースティックエミッション(AE)」と呼ばれるもので、材料や部品に負荷がかかったとき、微細なき裂の進展などに伴って発生する高周波の弾性波をセンサーで拾い、劣化の進み具合を見張るやり方である。いずれも「壊さずに、中の変化を音で知る」という点が共通している。[1][2]
まず利点を整理する。第一に、非接触・非破壊で安全に扱えることが大きい。超音波やAEは放射線を使わないため、放射線管理のような厳格な安全対策を要せず、現場に優しい検査手段となる。第二に、運転中の構造物や大型設備を「止めずに」「広い範囲を」監視できる点である。AEは複数のセンサーを配置して全体を見張ることができ、応力がかかったときに発生する信号をリアルタイムに捉えて、どのあたりで活動が強いかも推定できるため、稼働中の大構造物に適する。第三に、微小な変化への感度が高く、初期段階から兆候を捉えやすい。AEは「活発に進行している欠陥」に伴って出る高周波エネルギーを捕まえる性質があり、進展を早期に察知できる点が評価される。第四に、空気伝搬超音波を使う漏れ検査は非侵襲で、配管や設備を止めずに実施でき、漏れ位置の特定も迅速である。方向性のあるマイクや表示と組み合わせれば、騒音のある現場でもピンポイントで場所を絞りやすく、微小漏れの検出にも有効だとされる。[3][4][2][5][6][7]
さらに、実運用に結びつく利点として、リアルタイム監視と継続観測に向くことが挙げられる。AEは負荷をかけた状態で連続的に波形を収集し、活動度(どれだけイベントが起きているか)や強度(どれだけ大きいか)を時々刻々と評価できるため、異常の立ち上がりを逃さずに捉えやすい。また、広い面積や大きな構造物を比較的少ないセンサーでカバーできる点も、点検効率の観点で有利とされる。空気中の超音波による漏れ検査は、圧縮空気、ガス、真空、冷媒など対象の種類を問わず横断的に使えるため、工場全体の保全で「最初に当たりを付ける」スクリーニングにも適する。[4][8][2][9]
一方で、注意すべき制約も明確である。第一に、バックグラウンドノイズの影響を受けやすい点だ。工場のように周囲が騒がしい環境では、AEも空気伝搬超音波も外乱の混入で信号解釈が難しくなるため、フィルタリングやしきい値設計、信号弁別の工夫が必須になる。第二に、AEには「活動している欠陥しか捉えられない」という性質がある。すでに存在するが動いていない“静的な欠陥”は音を発しないため、検出できないことがある。このため、外観・超音波探傷(接触型UT)・電磁系など、他の手法と組み合わせて総合判断する運用が推奨される。第三に、結果の解釈が定性的になりがちで、定量的な寸法や残寿命の直接推定は難しいことがある。AEは「どこかで活動がある」ことを示すのに優れるが、単独では欠陥サイズや形状を正確に測るのが難しく、位置推定や活動度評価にとどまる場面がある。第四に、超音波を用いる方法は、圧力差や乱流がないと漏れ音が生じにくいなど、検出条件に依存する。配管が加圧されていない、流れがない、といった状況では検知が難しく、運用条件の整備が必要になる。[10][2][5][3][4]
設備側・手順側の制約も整理しておく。AEは負荷がかかって初めて信号が出るため、対象に適切な応力を与えられる試験条件が不可欠である。また、センサー配置や応答の伝播特性を理解していないと、場所の推定やイベントの分類に誤りが生じやすい。解釈には専用ソフトと熟練が求められ、教育・訓練の投資が前提になる。空気伝搬超音波の漏れ検査は携帯性に優れ、手が届きにくい場所でも扱いやすいが、背景ノイズが強い現場では誤報や見逃しが増える可能性があるため、周波数帯の選択や指向性アタッチメントの活用、距離の取り方など運用ノウハウが成否を分ける。[5][11][10][4]
他方式との比較の観点も役立つ。たとえば接触式の超音波探傷(UT)は体積内部の欠陥を高感度で検出でき、安全で携行しやすい一方、探触子と材料を密着させるための表面準備やカプラントが必要で、複雑形状は難しいなどの制約がある。これに対し、AEは「対象が発する音」を受動的に拾うため広域・運転中の監視に向き、空気伝搬の超音波は完全非接触で停止せずに点検できる。この補完関係を理解して、目的に応じて使い分けるのが合理的である。[2][3][4]
以上を踏まえ、利点を最大化し制約を抑える実践の要点をまとめる。- 目的の明確化:初期兆候の捉えやすさ(AE)、非停止での漏れ探索(空気伝搬超音波)など、目的に合う方法を選ぶ。- ノイズ対策と設定:帯域フィルタ、しきい値、信号弁別を適切に調整し、騒音環境での誤報を抑える。- 条件の整備:AEは応力付与、超音波漏れ検査は加圧・流れの条件を満たし、検出可能な状態で実施する。- 融合と確認:位置特定や寸法把握が必要なときは、UTなど他のNDT手法と併用して定量的な裏付けをとる。- 配置と校正:センサーのレイアウト、到達距離、感度を事前に試験して、対象と構造に合った監視網を設計する。- 人材と手順:解析ソフトの習熟、判定基準の文書化、訓練に投資して、現場で安定運用できる体制を作る。[3][10][4][2][5]
結論として、音を用いた非接触・非破壊検査は、運転を止めずに広域・高感度で前兆を捉えられる点で、予知保全に強い武器になる。一方で、活動中の欠陥に偏りやすい、ノイズに影響される、定量化が難しいといった制約を理解し、条件整備・信号処理・他手法の補完で弱点を補うことが欠かせない。適切な目的設定と手順設計のもとで活用すれば、安全で効率的な監視を実現し、停止の未然防止に大きく貢献できる。[10][4][2]
[1] https://www.sciencedirect.com/topics/earth-and-planetary-sciences/nondestructive-test
[2] https://www.twi-global.com/technical-knowledge/faqs/acoustic-emission-testing
[3] https://www.asnt.org/what-is-nondestructive-testing/methods/ultrasonic-testing
[4] https://nwegroup.no/acoustic-emission-ae/
[5] https://yoderplumbing.com/how-is-ultrasound-used-in-leak-detection-for-precise-results/
[6] https://mfe-is.com/acoustic-emission-testing/
[7] https://superiorsignal.com/resources/useful-articles/104-successful-leak-detection-using-ultrasonics
[8] https://iconic.com.bd/ultrasound-leak-detection/
[9] https://www.uesystems.com/how-ultrasound-technology-was-used-to-locate-low-level-leaks-in-heat-exchangers/
[10] https://ndtblog-us.fujifilm.com/blog/acoustic-emission-testing/
[11] https://www.klinger.com.au/integrity-services/airborne-ultrasonics/
[12] https://www.formatndt.co.uk/advantages-and-disadvantages-of-non-destructive-testing/
[13] https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0079642523000877
[14] https://www.onestopndt.com/ndt-articles/acoustic-emission-testing
[15] https://www.addcomposites.com/post/non-destructive-testing-for-composites-different-inspection-methods
[16] https://ndtcorner.com/tech_details/17
[17] https://www.aendt.com/blog/acoustic-emission-testing.html
[18] https://ultriceslekdetectie.nl/en/blog/advantages-and-disadvantages-of-different-leak-detection-techniques/
[19] https://inspectioneering.com/journal/2021-06-30/9721/ffs-forum-acoustic-emissions-testing---the-least-understood-inspection-techniqu
[20] https://eurocontrol.apave.com/en/Our-lines-of-activity/NDT-and-industrial-inspection/Acoustic-emission-NDT
※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
※本ページの内容は、個人的な学習および情報整理を目的として提供しているものであり、その正確性、完全性、有用性等についていかなる保証も行いません。本ページの情報を利用したこと、または利用できなかったことによって発生した損害(直接的・間接的・特別・偶発的・結果的損害を含みますが、これらに限りません)について、当方は一切責任を負いません。ご利用は利用者ご自身の責任でお願いいたします。