
6. 故障予知のアプローチ
6.6 クロスバリデーション
クロスバリデーションは、限られたデータから作ったモデルが「見たことのない新しいデータ」に対してどれくらい通用するか(汎化性能)を安定して見積もるための評価手法である。単に一度だけ訓練用と評価用に分けると、分け方の偶然で結果がぶれたり過大評価になったりするが、クロスバリデーションは分割と評価を繰り返して平均化することで、その偶然性を減らすのが狙いである。基本形のk分割交差検証では、データをk個の同程度のかたまり(フォールド)に分け、各回で1つを評価用、残りを訓練用として学習・評価をk回繰り返し、指標の平均とばらつきを得る。[1][2][3][4]
この方法が役立つ理由を直感で押さえる。1回だけの分割では、たまたま「易しい評価用データ」や「難しい評価用データ」に当たる恐れがあるが、複数回の入れ替え評価の平均で見れば、その偶然をならせる。特にデータが多くない場面や、モデルの比較・ハイパーパラメータ調整を行う場面で、より信頼できる性能見積もりが得られる。[2][3][4]
分類タスクでクラスの数が偏っている場合は「層化k分割交差検証」を使うのが定石だ。これは各フォールド内のクラス比が元のデータに近くなるように分ける方法で、ある折に少数クラスがほとんど含まれない事故を防ぎ、評価の安定性を高める。不均衡データが当たり前の故障予知では、層化を徹底することが評価の公正さに直結する。[5][6][2]
時系列データには、通常のランダムなk分割は向かない。未来の情報を訓練側に混ぜてしまう「データリーク」が起きるからで、これは非現実的な高精度の原因になる。そこでTimeSeriesSplitのように、時間順を保ち「過去で学び、その直後の未来で検証する」方法を用いる。この分割は各回の検証が時間的に先へ進むにつれ、訓練に使える履歴が増えていく設定で、現実の運用に近い評価を実現する。実装例でも、指定した分割数で時間順に訓練・検証を繰り返す手順が示されており、必要に応じて訓練サイズを一定に制御できる。[3][7]
実務での進め方を段階的にまとめる。まず、データの性質を確認する(分類の不均衡の有無、時系列か否か)。分類で不均衡があるなら層化k分割、時系列ならTimeSeriesSplitを選ぶのが基本である。次に、評価指標を決める。故障予知では単純な正解率より、少数クラスの見つけやすさを反映する指標(再現率、適合率、F1、PR曲線など)を重視し、その平均や分散を各折で集計する。ハイパーパラメータやモデル比較は、この枠組み上で行い、最終的なモデル選択は平均性能だけでなくばらつき(標準偏差)も併せて判断する。[4][2][3][5]
注意点も明確にしておく。- 各フォールドごとに訓練データで前処理(標準化など)のパラメータを学び、検証側に適用する順序を守る(全体で先に計算すると情報漏えい)。- kが大きすぎると学習を何度もやり直す計算負荷が重くなり、小さすぎると評価のばらつきが大きいまま残るため、データ量と計算資源に合わせて決める。- 時系列では時間順序を崩さない分割以外は使わない。TimeSeriesSplitを用いれば、未来のデータが訓練側に混じることを避けられる。[8][7][3]
よく使うバリエーションを整理する。- k分割交差検証:最も基本的。データをk等分し、各折で学習・評価を交替して平均。- 層化k分割交差検証:分類の不均衡に強い。各折でクラス比を元データに近づける。- 時系列交差検証(TimeSeriesSplit):時間順を保つ。過去→直後の未来での検証を繰り返す。- LOOCV(1つ残し法)などの極端な設定もあるが計算負荷が非常に大きく、実務ではk分割が一般的である。[7][9][1][2][3][4][5]
ハイパーパラメータ調整との組み合わせでは、グリッドサーチやランダムサーチを「内側の交差検証」で回し、その結果で外側の検証(または最後のテスト)に進む二重ループ(ネスト)を設計すると過適合を防ぎやすい。ポイントは、調整に使った評価データと最終評価データを厳密に分け、最後の評価用データは一度だけ用いることである。[3][4]
現場での落とし穴と回避策を挙げる。- ランダムk分割を時系列に使う:時間の因果を壊し、非現実的な高精度に見える。TimeSeriesSplitへ切り替える。- 不均衡で層化しない:折によって少数クラスがほぼゼロになり、評価が不安定。層化を必ず指定する。- 前処理の情報漏えい:全体で標準化の平均・分散を計算してから分割すると漏えい。各折で訓練側のみで学び検証へ適用する。- kやパラメータの固定観念:データ量・分布・計算資源に合わせてk、分割方法、評価指標を見直す。[2][8][7][5][3]
故障予知での具体化の例として、設備音の特徴量(RMS、バンドエネルギー、スペクトル重心など)を抽出し、分類器を層化k分割で評価する流れがある。各折で再現率・適合率・F1を記録し、平均と標準偏差で安定性を確認する。時系列の劣化トレンド推定や将来予測では、TimeSeriesSplitを使って「過去→未来」を守り、RMSEなどの回帰指標の平均でモデル比較を行う。これにより、運用時に近い条件での妥当なモデル選択が可能になる。[10][7][2][3]
まとめると、クロスバリデーションは「偶然に依存しない安定した性能見積もり」を得るための基本手段であり、分類の不均衡には層化、時間依存にはTimeSeriesSplit、とデータの性質に合わせて分割法を選ぶのが要点である。さらに、各折での前処理順序の厳守と、平均だけでなくばらつきも見る姿勢が、現場適用の信頼性を高める。[8][7][2][3] [1] https://aiacademy.jp/media/?p=263
[2] https://boritaso-blog.com/cross_validation/ [3] https://www.codexa.net/cross_validation/ [4] https://musashi-ai.com/glossary/2023/06/6088547addedd3af3fbe0d460b0a0948a97e9cf0.html [5] https://gucci-j.github.io/post/cv-intro/ [6] https://blog.amedama.jp/entry/2018/08/25/174530 [7] http://www.digitalreactor.net/2025/03/time-series-cross-validation/ [8] https://datachemeng.com/cautions_in_cross_validation/ [9] https://www.netattest.com/cross-validation-2024_mkt_tst [10] https://zenn.dev/megane_otoko/articles/067_time_series_pred_2nd [11] https://best-biostatistics.com/correlation_regression/crossvalidation.html [12] https://www.youtube.com/watch?v=RI0WgcBS3g0 [13] https://zenn.dev/skata/articles/20241204-tscv [14] https://note.com/super_yes_man/n/n2489c354f8f4 [15] https://qiita.com/s_katagiri/items/7f06ca85f851e0a50516 [16] https://note.com/united_code/n/na1a17115d855 [17] https://appswingby.com/k%E5%88%86%E5%89%B2%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BC-%E4%BB%8A%E6%9B%B4%E8%81%9E%E3%81%91%E3%81%AA%E3%81%84it%E7%94%A8%E8%AA%9E%E9%9B%86/ [18] https://book.st-hakky.com/data-science/cross-validation-in-machine-learning [19] https://blog.amedama.jp/entry/time-series-cv [20] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E6%A4%9C%E8%A8%BC※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
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