
2. 音データの基礎知識
2.3 振幅(音の大きさ)・波形の概念
音は空気の圧力がわずかに高くなったり低くなったりする揺れが伝わっていく現象で、この揺れの「強さ」を直感的に表したものが振幅である。太鼓を強く叩けば大きな音が出るのは、膜の振れ幅(振幅)が大きくなって空気を強く押し引きし、耳に届く圧力の変化が大きくなるからだ。ただし、人の感じる大きさ(「うるささ」)は振幅に単純比例ではなく、感覚は対数的で広い範囲を扱うため、工学では「音圧レベル」という対数目盛の指標を用いる。[1]
音圧レベルは、音の圧力(Pa)を基準値と比べ、対数で表した量で、単位はdB(デシベル)で書く。基準として一般に人がかろうじて聞こえる最小の音圧20マイクロパスカル(20µPa)を使い、式は Lp=20log10(p/p0) と定義される(pは測定音圧、p0は20µPa)。この対数表現により、極端に広い範囲の強さを短い数値で扱え、人の聴感の性質にも合う。例えば音圧が10倍になると+20dB、約2倍で+6dB程度増えるという関係になる。[2][3][4][5][6][7]
デシベルは「基準に対する比」を対数で示す相対量であり、基準が何かを明示して使うのが原則で、音の大きさでは音圧レベルdB SPL(Sound Pressure Level)が基本になる。実務では、人の耳が低音を感じにくく中高音に敏感という性質を反映させるため、A特性という重み付けを加えたdB(A)も使われることがある。[3][8][2]
音圧レベルの目安を具体例で捉えると、0dBは1kHz付近での聴覚の閾値(最小可聴)に対応し、静かな部屋は20〜30dB、会話は40〜60dB、交通の多い道路は80〜90dB、ジェット機近くは120dB以上といった代表値で語られることが多い。このように同じPa表記よりも、dBで示した方が直観的で比較しやすい。[9][3]
ここで、波形という考え方に移る。マイクやオシロスコープで音の時間変化を描くと、時間軸に沿って上下に揺れる曲線が得られるが、この形が「波形」であり、波形の形は音の性質(音色や雑音性)に強く関係する。最も基本は正弦波(サイン波)で、1つの周波数だけを含む純音に対応し、滑らかな一山一谷の形を取る。音響や電気の基礎では、この正弦波が多くの現象の基準になる。[10][11][12][1]
正弦波以外にも、周期的に繰り返す典型的な波形がある。矩形波(方形波)、三角波、のこぎり波などで、これらは複数の周波数(倍音)を含む「周期的複合音」である。矩形波は急な立上がり・立下がりを持つ角ばった形で、奇数次の倍音を多く含み、硬く明瞭な音質として感じられる。三角波は山と谷が直線で結ばれ、奇数次倍音だが高次が弱く、正弦波に近い柔らかさが残る。のこぎり波は片側が斜めに上がり反対側が急に落ちる形で、整数倍の倍音を広く含み、最も「倍音が豊かな」明るい音質になる。このように、波形の形の違いは、含まれる周波数成分の違い(フーリエ的な構成)の違いであり、それが音色の違いとして耳に現れる。[11][12][13][14][10]
波形はまた、周期的(繰り返しのある)信号と、非周期的(雑音のように繰り返さない)信号に大別でき、ステップやパルスといった一時的な信号も扱う。機械の状態監視では、周期的な衝撃が繰り返し現れる波形は回転故障の兆候、ランダムな高周波が増える波形は摩耗や漏れの兆候、といった具合に波形の特徴づけが診断に活用されるが、基礎としては「形の違い=周波数成分の違い」と押さえるとよい。[12]
振幅と波形の関係をもう少し丁寧に整理する。振幅は波形の上下の大きさで、同じ波形でも振幅が大きいほど物理的な音の強さは大きい。しかし、人の感じる大きさは耳の感度に依存し、同じdB SPLでも周波数によって「聞こえ方」は異なるため、騒音評価などでは周波数重み付け(A特性)を加えた値を使う場合がある。また、波形に鋭い角(急峻な変化)があると高周波成分が多く含まれ、同じ実効値でも耳障りに感じることがある。言い換えると、物理的強さ(dB SPL)と主観的大きさは完全には一致せず、波形(スペクトル)の違いが聴感に影響する。[8][3][1]
実務上よく出てくるdBの注意点も挙げておく。dBは「相対量」なので、何を基準にしたdBかを常に意識すること(音ならdB SPL、聴覚検査ならdB HLなど)が大切である。異なる基準を混ぜて比較すると誤解のもとになる。また、dBは対数なので、数値の足し引きが線形の足し引きと一致しない。例えば、同じ大きさの音源2つを同時に鳴らすと理想的には+3dBの増加であり、+6dBは音圧が2倍ではなく、音圧の2倍は約+6dBという関係である(電圧/音圧比の20log)。[15][4][16][7][2]
最後に、振幅・波形を観察する際のコツをまとめる。観測したい信号をできるだけ一定の条件(距離、角度、背景騒音)で取り、時間波形と周波数成分(スペクトル)を併せて見ると、振幅の変化(大きさ)と波形の特徴(音色・衝撃性)を切り分けやすい。そして、大きさを客観的に示すときはdB SPLで、耳の感じに近づけたい評価ではA特性dBを併用する、といった使い分けが有効である。この基礎を押さえることで、音データを用いた故障予知でも、「どのくらい大きくなったか」(振幅・dB)と「どんな成分が増えたか」(波形・周波数)の両面から、早期の異常の手がかりを確実に捉えやすくなる。[3][1][12][8] [1] https://jp.yamaha.com/products/contents/proaudio/docs/better_sound/part1_01.html
[2] https://www.nea-ltd.com/knowledge/about-sound/01-03.html [3] https://jp.sameskydevices.com/blog/the-basics-of-sound-pressure-level-and-decibels [4] https://bo-onroom.com/glossary/sound-pressure-level-guide/ [5] https://cognicull.com/ja/yom2l7fm [6] https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_support/newreport/decibel/db_2.htm [7] https://natuch.com/2014/12/26/decibel/ [8] https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_support/newreport/noise/souon_2.htm [9] http://www.cs.t-kougei.ac.jp/av-media/lectures/2010/cs/y3/amp/1/page050.html [10] https://thegoronyan25.com/?p=905 [11] https://srckeisukeh.hatenablog.com/entry/2024/04/22/154127 [12] https://www.tek.com/ja/documents/primer/oscilloscope-basics [13] https://mm5musics.com/synth1/ [14] https://www.mlab.im.dendai.ac.jp/~osaka/snd_music/chap2.html [15] https://d-monoweb.com/blog/db-display/ [16] https://www.gavo.t.u-tokyo.ac.jp/~mine/japanese/acoustics/lecture-06.pdf [17] https://ai-ken.co.jp/column/1088/ [18] https://note.com/shimix/n/n89c676875262 [19] https://www.healthyhearing.jp/topics/topic-article-05 [20] https://www.city.sapporo.jp/kankyo/souon/sonota/yogo.html※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
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