
2. 音データの基礎知識
2.4 音の高さと大きさの違いと聴こえ方
音の「高さ」と「大きさ」は、日常ではどちらも“音の感じ”として語られるが、物理的にも聴こえ方(聴覚の性質)としても別の量である。高さは主に振動の速さ、つまり周波数で決まり、単位はHzで表す。一方の大きさは、空気の圧力変化の強さに関わる量で、物理的には音圧や音圧レベル(dB)で表す。ただし、人が感じる「大きさ」は音圧レベルそのものではなく、耳の感度の周波数依存性や音どうしの“かき消し(マスキング)”の影響を受けるため、聴感上の大きさ(ラウドネス)として考える必要がある。[1][2][3]
音の高さは、1秒間に何回くり返す波かという「周波数」に対応する。周波数が高いほど高く、低いほど低く感じる。例えば楽器の基準音Aは約440Hzと定義され、これは1秒に440回の振動が耳に届くことを意味している。高さは主に“どのくらいの速さで揺れているか”に結びついた感覚であり、同じ音量でも周波数が変われば“高い”“低い”という印象が大きく変わる。一方の音の大きさは、圧力変化の強さに対応し、物理量としては音圧レベルdBで表すが、人の耳は周波数によって感度が異なるため、同じdBでも聴こえる大きさが違って感じられる。つまり、物理量としての音圧と、聴感上の大きさ(ラウドネス)は一致しないことがある。[4][2][3]
この「同じdBでも聴こえ方が違う」事実を整理したのが等ラウドネス曲線である。これは、1kHzである大きさに感じる音と“同じ大きさに感じる”ために、他の周波数では何dBが必要かを結んだ曲線で、人の耳の感度の周波数依存を示す地図だ。現在広く用いられる規格はISO 226:2003で、耳は2–4kHzあたりに最も敏感で、低音側は感度が低いこと、また小さな音ほど感度の凸凹が強く現れることが示される。例えば1kHzで40dBと等しく感じるためには、125Hzでは約60dBが必要という代表的な読み取りが紹介されている。要するに、低い音は“たくさん鳴らして”やっと同じ大きさに感じる一方、中高音は少ない音圧でもよく聞こえる。[5][2][3][6]
この人の耳の性質を簡便に扱うために、騒音評価などでは周波数重み付け(A特性)を用いることが多い。A特性は、中程度の音量域の等ラウドネス曲線(歴史的には40phonに近い感度)を模したフィルタで、低音側の寄与を小さく、中高音を相対的に重く評価する。結果として、同じ音圧でも低音は数値上小さめ、中高音はそのままに近い数値となる。A特性は“人の感じに近づける”ための代表的な補正だが、ラウドネスそのものと一致するわけではない点に注意が要る。[2][7][8]
「聴こえ方」はさらに複雑で、音どうしが同時にあると一方が他方を“かき消す”マスキングが起きる。特に周波数が近い音は互いに影響しやすく、ある帯域の音が強いと、その近傍の弱い音は聞こえにくくなる。耳は周波数ごとにフィルタのような性質(臨界帯域)を持ち、帯域ごとの強さを合算して全体のラウドネスが決まる、という考え方がラウドネス計算の核になっている。したがって、物理的な総dBの大小だけでなく、エネルギーがどの帯域に分布しているか(スペクトル分布)が、聴感上の大きさを左右する。[9][1][2]
ここまでを直感でまとめると、音の高さは“速さ(周波数)”の話、音の大きさは“強さ(音圧)”の話だが、人の耳は中高音に敏感、低音に鈍感という“クセ”があるため、同じ強さでも聴こえる大きさは周波数で違う、ということになる。等ラウドネス曲線はこのクセを地図化したもので、規格ISO 226:2003により代表的な曲線が定められている。[3][6][5]
実務的な例で言えば、低いブォーンという音はメーター上のdBが高くても「思ったより小さく感じる」ことがある一方、2–4kHz付近の成分が増すと同じdBでも「耳につく、うるさい」と感じやすい。騒音評価でdB(A)を使うのは、こうした人の感じ方をある程度反映したいからである。ただし、A特性は万能ではなく、音の帯域幅やマスキングの効果までを厳密に再現するわけではないため、製品の音質評価や快適性の議論では、ラウドネス(聴感上の強さ)そのものの計算法を用いることも多い。[10][1][2]
高さと大きさの混同を避けるコツをいくつか挙げる。まず、音程やピッチの違いを語るときは周波数という軸で整理する。次に、“うるささ”や“聞こえやすさ”を語るときは、単なるdBではなく、周波数帯域の分布と、A特性やラウドネスの考え方を合わせてみる。最後に、複数の音が同時にあるときはマスキングを想定し、近接する帯域の強さのバランスが聴こえ方を左右することを踏まえる。これだけで、同じメーター値なのに“感じ方が違う”というよくある疑問に理路整然と答えられる。[1][2][3]
歴史的には、1930年代のフレッチャーとマンソンによる等ラウドネス曲線の測定から始まり、その後の再測定・検証を経て、2003年に国際規格ISO 226:2003として標準的な等ラウドネスレベル曲線がまとめられた。この改定には国際共同研究が寄与し、1kHz以下の低周波域などで旧データの不確かさを補正した結果が反映されている。なお、等ラウドネス曲線は“若年の正常聴力者の統計的平均”であり、個々人の差や年齢による高域感度低下は別途考慮が必要である。[7][5][3]
教育の観点では、次の順序で教えると混乱が少ない。第一段階として、音の高さ=周波数、音の大きさ=音圧レベル(dB)の区別を明確にする。第二段階として、同じdBでも聴こえる大きさが違う理由を、耳の周波数感度(等ラウドネス曲線)とA特性で説明する。第三段階として、複数音がある現実の場では、臨界帯域とマスキングによって聴こえ方が変わること、したがって“スペクトル”を見て評価する必要があることを示す。最後に、ラウドネスなど聴感指標は、帯域ごとの寄与を積分して“感じる大きさ”を推定する枠組みであり、dB値だけでは説明しきれない聴覚の現実を扱う道具だと位置づける。[2][9][1]
故障予知への応用では、たとえば同じ総dBでも、異常時に2–4kHz付近の尖った成分が増えると、人には急に“うるさく、異常らしく”聞こえることがある。等ラウドネスの観点を踏まえると、単純な音圧増加だけでなく、帯域別の変化を見ることが重要になる。さらに、強い広帯域雑音があると、微弱な異常音はマスキングで聞き取りにくい。そこで、人の耳の代わりにバンド別に分解して監視する、あるいは聴覚のフィルタに似た帯域処理を取り入れて検出感度を上げる、といった設計思想が有効になる。[10][1][2]
まとめとして、音の高さ(ピッチ)は周波数、音の大きさ(ラウドネス)は聴感上の強さであり、物理的な音圧レベル(dB)と一対一では結び付かない。人の耳は周波数によって感度が異なり、2–4kHzに敏感、低音に鈍感で、等ラウドネス曲線がその性質を表す。評価や設計では、A特性などの重み付けや、臨界帯域・マスキングを踏まえたラウドネスの考え方を使うことで、実際の“聴こえ方”に近づけた判断ができる。[3][1][2] [1] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/77/12/77_790/_pdf
[2] https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_support/newreport/soundquality/soundquality_2.htm [3] https://www.soumu.go.jp/main_content/000674399.pdf [4] https://www.nea-ltd.com/knowledge/about-sound/01-01.html [5] https://www.weblio.jp/content/ISO+226 [6] https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_support/newreport/noise/souon_3.htm [7] https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2003/pr20031022/pr20031022.html [8] https://www.rex-rental.jp/feature/1073/note/acz-weighting [9] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/75/10/75_582/_pdf [10] https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/c_support/newreport/noise/souon_13.htm [11] https://www.soundzone.jp/staffblog/11453/ [12] https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/nakaniwa/keisoku/loudness.htm [13] https://note.com/lateralsaadesign/n/n96981a6041fb [14] https://oto-to-mimi.com/sound-design/loudness-curve/ [15] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%89%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%89%E3%83%8D%E3%82%B9%E6%9B%B2%E7%B7%9A [16] http://www.hibizaidan.jp/asset/pdf/report/report_h17_syou.pdf [17] https://www.skklab.com/%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0%E5%88%A5%E3%81%AE%E9%9F%B3%E5%9C%A7%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%81%A8%E9%A8%92%E9%9F%B3%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%AB [18] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/78/2/78_88/_pdf/-char/ja [19] https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/2004789/files/A36900.pdf [20] https://ai-ken.co.jp/column/1984/※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
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