
4. データ前処理
4.6 データのシャッフル
データのシャッフルとは、並んでいるデータの順番をランダムに入れ替える操作である。一見単純に見えるが、学習の公平さや評価の正確さを保つうえでとても重要な前処理で、特に「データの並びが偏っている」場合に威力を発揮する。並び順には収集順(時系列)、機器やラインごと(グループ)、あるラベルの連続(不均衡)など、さまざまな偏りが混ざっていることが多い。シャッフルは、こうした並び順の“癖”を学習が誤って覚えてしまうのを避け、モデルの汎化(新しいデータへの当てはまり)を助ける基本手段である。[1][2]
まず、シャッフルが必要になる典型場面を整理する。1つ目は学習と評価への分割前で、もし順番どおりに前半を学習、後半を評価にすると、たまたま後半に特定の条件やクラスが偏っていても気づかず、評価が不公平になる恐れがある。ここでシャッフルしてから分割すれば、訓練とテストの両方に似た分布でデータが入る確率が高まり、偶然による過大・過小評価を和らげられる。2つ目は交差検証(データを複数の折りに分けて何度も学習・検証を繰り返す評価法)で、各分割の前にシャッフルを入れることで、ある折だけが易しすぎる・難しすぎるといった偏りをならす効果がある。また、データが非常に大きい場合などは、毎回一部をランダム抽出して評価する「シャッフル分割交差検証(Shuffle-Split)」が有効で、訓練・テストの比率も柔軟に指定できる。[2][3][1]
次に、ラベルの比率が偏っている分類問題では、シャッフルに加えて「層化(ストラティファイド)」を組み合わせるのが定石である。これは、各分割の中でクラスの割合が全体の割合に近くなるように、シャッフルしながら分ける方法で、少数クラスが検証データに入らない、といった事故を防ぐ。K分割交差検証に層化を適用する「層化K分割(Stratified K-Fold)」、あるいはシャッフル分割に層化を加える「層化シャッフル分割(Stratified Shuffle Split)」が広く使われ、どの折でもクラス比が揃うため、評価の安定性が高まる。実装ツールでも、分割時にshuffleフラグやrandom_state(乱数シード)を設定して再現性を確保するのが推奨されている。[4][5][6][7][1]
注意すべきは、シャッフルしてはいけない、または工夫が必要なケースの見極めである。代表は時系列データで、未来の情報を過去の学習に混ぜてしまうと「情報漏えい」になり、現実では不可能な高精度になってしまう。この場合は、シャッフルせずに「過去→未来」の順で学習・検証を区切る時系列用の交差検証を使うか、シャッフルは同一時間帯ブロック単位で行い、ブロックの順序は保つなどの配慮が必要になる。また、同一個体や同一ライン内で似たデータが多数ある場合は、個体(グループ)をまたいで混ざらないように「グループ分割」を使い、同じグループが訓練と検証に跨らないようにするのが基本である。層化とグループを両立する手法(StratifiedGroupKFoldなど)も紹介されており、クラス比の維持とグループ独立性を同時に満たす設計が可能だ。[3][8]
シャッフルが効果を発揮する理由は直感的だ。データの順番に含まれる偶然や収集手順の癖(例えば、最初は正常が多く、徐々に異常が増える、特定ロットが連続している、など)をならして、学習と評価の条件を近くするからである。これにより、たまたま予測しやすいデータだけで評価する危険を減らし、汎化性能の見積もりが安定する。一方で、並びに意味がある(時間、グループ)ときに無邪気にシャッフルすると、先述の情報漏えいが起きる。したがって、「いつランダム化するか」「何を単位にシャッフルするか」を目的とデータ構造に合わせて選ぶことが重要である。[8][1][2][3]
実務での手順は次のようにまとめられる。1) データ構造の把握:時系列か、グループがあるか、クラス比は偏っていないかを確認する。2) 分割戦略の選択:通常データならシャッフル+K分割、クラス不均衡なら層化、巨大データや柔軟な比率が必要ならシャッフル分割(Shuffle-Split)を選ぶ。3) 再現性の確保:random_stateを固定し、結果の再現ができるようにする。4) データ漏えい対策:時系列は順序を守る、グループは跨がない、特徴量作成やスケーリングは「学習用で学んで検証用へ適用」の順を守る(分割前に全体で計算しない)。5) 検証の安定化:複数分割の結果を平均し、単一分割による偶然の影響を減らす。[6][1][2][3][8]
具体例でイメージを固める。製造ラインの音データを日付順に溜めた場合、朝は静かで夕方は騒がしいかもしれない。順番のまま前半学習・後半評価にすると、評価が「夕方のうるさい条件だけ」になり、モデルの実力を誤解する恐れがある。シャッフルしてから分割すれば、朝も夕方も両方に入る確率が上がり、平均的な実力に近い評価が得られる。一方、日毎の変化そのものを予測したい(時系列予測)なら、日付を保ったまま「過去日で学習→未来日で評価」にし、シャッフルはしない。分類で少数の異常サンプルがある場合は、層化を使って各折に必ず異常が入るようにして、評価が不安定化しないようにする。[5][1][4][8]
交差検証と組み合わせたシャッフルのバリエーションも押さえておくと役立つ。- K分割(K-Fold):データをKつに分け、各回で1つを検証、残りを学習にする。shuffleを有効にすれば、分割前にランダム化され、各折の偏りが減る。- シャッフル分割(Shuffle-Split):毎回ランダムサンプリングで学習・検証を作るため、データの一部を使い回せる。大規模データで有効。- 層化K分割/層化シャッフル分割:各折でクラス比を全体に揃える。分類の標準設定。- 時系列CV:順序を崩さず、過去→未来で区切る。シャッフルはしない。- グループK分割/層化グループK分割:同一グループが学習・検証に跨らないようにする。人・機器・ロット単位の独立性を守る。[1][3][8][5]
最後に、よくある失敗と対処をまとめる。- 失敗1:分割前に全データで前処理(正規化や特徴抽出)をしてからシャッフル・分割。対処:必ず「学習用の統計で学び、検証・テストにはそのパラメータを適用」する順序を厳守する(リーク防止)。- 失敗2:時系列をシャッフルして高精度に見せてしまう。対処:時系列CVやウォークフォワード分割を使う。- 失敗3:不均衡データで通常シャッフルのみ。対処:層化を有効にしてクラス比を揃える。- 失敗4:同一個体のデータが学習・検証に跨り、過大評価。対処:グループ分割で個体を分ける。- 失敗5:再現性がない。対処:乱数シード(random_state)を固定する。[7][3][8][5][6][1]
要点として、シャッフルは「並びの癖をならし、学習と評価の条件を近づける」ための基本操作であり、層化・グループ・時系列といった分割戦略と組み合わせて使うことで、評価の信頼性と再現性が大きく向上する。目的とデータ構造に合ったシャッフル設計を選べば、故障予知の実運用でも、誤検知と見逃しのバランスがとれた堅実なモデル評価に近づける。[2][3][8][5][1] [1] https://www.codexa.net/cross_validation/
[2] https://zenn.dev/monda/articles/kaggle-cv-template [3] https://zenn.dev/yuto_mo/articles/c5b37a569d5673 [4] https://qiita.com/Hatomugi/items/620c1bc757266b00e87f [5] https://otafuku-lab.co/aizine/cross-validation0910/ [6] https://helve-blog.com/posts/python/sklearn-cross-validation/ [7] https://blog.since2020.jp/data_analysis/%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E5%AD%A6%E7%BF%92%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E6%89%8B%E6%B3%95-%E5%BE%B9%E5%BA%95%E8%A7%A3%E8%AA%AC-part-2/ [8] https://www.salesanalytics.co.jp/column/no00324/ [9] https://qiita.com/Yorozuya59/items/53cd1fa9fe25efa16d72 [10] https://triggermind.com/ai-basic/machine-learning-basic/ [11] https://note.com/carbgem_hr/n/n6957224722f7 [12] https://pythonandai.com/scikit-learn-split/ [13] https://www.honda.co.jp/manual-access/navi/lxm-242zfni/pdf/lxm-242zfni_lxu-242nbi-a-03.pdf [14] https://car.panasonic.jp/support/manual/navi/data/re04d_04wd/re04d_04wd.pdf [15] https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/support/manual/SC-04E_J_OP_01FV.pdf [16] https://qiita.com/c60evaporator/items/ca7eb70e1508d2ba5359 [17] https://cs.regza.com/document/manual/100001_01r1.pdf [18] https://aws.amazon.com/jp/what-is/overfitting/ [19] https://www.honda.co.jp/manual-access/navi/vxu-207nbi/pdf/vxm-207vfni_vfei_vxu-207swi_nbi-a-all.pdf [20] http://car.panasonic.jp/support/manual/navi/data/rx02d_wd_rs02d_wd/rx02d_wd_rs02d_wd.pdf※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
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