
7. 機械学習の基本
7.7 モデル構築から評価までの流れ
機械学習の成否は、思いつきでモデルを作るか、手順に沿って丁寧に進めるかで大きく変わる。ここでは、現場で実際に機能するモデルを作るための一連の流れを、順を追ってわかりやすく説明する。流れの骨格は、目的の整理→データ理解→前処理・特徴量設計→学習と検証→最終評価→展開と監視である。この枠組みは実務的なワークフローの考え方と合致しており、分割・評価・ハイパーパラメータ調整・モデル解釈までを一貫させるのが要点だ。また、近年はこの流れ全体をパイプラインとして自動化し、再現性と品質を高める運用も一般化している。[1][2]
第一に、目的と要件を定める。何を予測・判定したいのか(分類か回帰か)、許容できる誤警報と見逃しのバランス、必要な評価指標(精度、再現率、F1、AUCなど)、運用上の制約(処理時間、更新頻度、説明性)を事前に合意しておくと、以降の選択がぶれない。実務の指針でも「ビジネス理解→データ理解→準備→モデリング→評価→適用」という段階設計が推奨されている。[3]
次に、データの収集と理解を行う。どのセンサ・どの期間・どの条件のデータが、目的に直結する情報を含むかを確認し、欠損、外れ値、単位、サンプリング設定、時刻の整合を点検する。モデル構築は“良いデータ”が前提であり、ここでの見落としは後段で必ず跳ね返る。データの基本統計や相関を可視化して、特徴の当たりをつけるのが近道である。[1]
第三に、前処理と特徴量設計を行う。欠損の補完、外れ値の扱い、スケーリング(標準化・正規化)、時系列なら窓分割と集約、ドメインに基づく特徴(RMS、バンドエネルギー、スペクトル重心、ピーク情報など)を揃える。注意すべきは、標準化や欠損補完などの前処理は、必ず「訓練データの統計だけで学び、検証・テストに適用する」順序を守ることだ。これを破ると情報漏えい(リーケージ)が起き、見かけだけ精度が高くなる危険がある。[4][5]
第四に、データ分割の設計をする。汎化性能(未知データへの強さ)を正しく見積もるには、訓練・検証・テストを役割分担させる。一般に、訓練で学び、検証でモデル選択やハイパーパラメータ調整、テストで最後に一度だけ実力確認をする。分類でクラス不均衡が大きい場合は層化分割を用い、各分割でクラス比を保つのが定石である。時系列では、未来の情報が訓練側に混ざらないよう、時間順を守るホールドアウトやTimeSeriesSplitを使う(ウォークフォワード検証)。これにより、将来予測という現実に近い条件での評価が可能になる。[6][7][8]
第五に、モデルの選択と学習・検証を行う。ベースライン(単純なモデルや既存手法)をまず用意し、その基準を上回るかを確認するのが健全である。検証では、複数モデルの比較、ハイパーパラメータ探索(グリッドやランダム)、特徴選定の有無、正則化や早期打ち切り、交差検証の平均とばらつきの確認、といった一連の調整を行う。過学習を避けるには、学習用とは独立な検証データ(または交差検証)で指標を監視し、改善が頭打ちになったら打ち切るのが有効である。[1]
第六に、評価指標の選択と曲線評価を行う。不均衡データが当たり前の異常検知では、単純な正解率より、再現率・適合率・F1、PR曲線(平均適合率)を重視するのが実務的である。しきい値に依存しない評価としてROC-AUCも参考になるが、少数派性能の比較にはPRの方が適切なことが多い。最終的な運用しきい値は、PR曲線上で「再現率の下限を満たしつつ適合率が高い点」や、コスト最小点を選ぶ、といった手順で決めるとよい。[9]
第七に、データ漏えいの最終確認をする。代表例は、分割前に全体統計で標準化してしまう、未来情報を特徴に混ぜる、ターゲットに直結する事後情報を説明変数に含める、訓練とテストの重複などである。これらは“見せかけの高精度”を生み、実運用で崩れる。対策は、時間順の分割、訓練基準の前処理、変数の時間因果の点検、パイプライン化による再現性確保である。[5][4]
第八に、最終評価(テスト)を一度だけ実施する。検証で選ばれたモデル・ハイパーパラメータ・前処理を固定し、触れていないテストデータで性能を確認する。この段階での改変は、評価の公正性を損なう。運用を想定した負荷条件やドリフト(季節・設備差)を踏まえた追加テストも有用である。[10][11]
第九に、デプロイ(展開)と監視の設計を行う。実運用では、前処理から推論までを同じパイプラインで流し、モデル・特徴・スケーリングの整合を保つ。性能やバイアス、説明可能性のレポート化、モデル登録・更新手順の整備が推奨される。近年の実装例では、品質・公平性・説明可能性をモニタし、しきい値を条件に展開可否を自動判定する仕組みも普及している。[2][12]
最後に、この流れを支える実践的ポイントをまとめる。- 再現性:データ分割、乱数シード、前処理、特徴生成、モデル設定を記録し、同じ結果が再現できるようにする。- パイプライン化:収集→前処理→学習→評価→登録→展開の各ステップを自動化し、人手による手順抜けを防ぐ。- 時系列配慮:TimeSeriesSplitや時系列ホールドアウトで“過去→未来”を厳守し、将来情報の混入を避ける。- 漏えい対策:訓練基準の前処理、未来情報の排除、説明変数の因果関係の点検を徹底する。- 指標選択:不均衡ではPR系指標とF1を主に、ROC-AUCは補助的に用いる。- モデル選定:ベースラインを必ず用意し、交差検証の平均と分散で安定性も評価する。[7][2][9][6][4][5][1]
以上の手順は、モデル構築から評価・運用までの道筋を明確にし、過学習や情報漏えいを避けながら、現場で通用する品質を確保するための実務標準と整合している。流れを一貫させ、評価と運用を見据えた設計を最初から組み込むことが、故障予知における機械学習の成功率を大きく高める。
[1] https://uribo.github.io/practical-ds/01/tidymodels-workflow.html [2] https://qiita.com/kimuni-i/items/0e49b0775167f61a82da [3] https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/technology-front-line/vol16.html [4] https://www.wiz.io/ja-jp/academy/data-leakage [5] https://ai-compass.weeybrid.co.jp/learning/data-leakage-a-pitfall-in-machine-learning/ [6] https://www.codexa.net/cross_validation/ [7] https://www.salesanalytics.co.jp/datascience/datascience257/ [8] https://chantastu.hatenablog.com/entry/2022/08/25/224645 [9] https://rabiloo.co.jp/blog/model-evaluation [10] https://ai.reinforz.co.jp/908 [11] https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/sagemaker/latest/dg/ex1-test-model.html [12] https://dataplatform.cloud.ibm.com/docs/content/wsj/getting-started/get-started-openscale.html?locale=ja&context=cpdaas [13] https://learn.arcgis.com/ja/projects/build-house-valuation-models-with-machine-learning/ [14] https://knknkn.hatenablog.com/entry/2020/05/03/150919 [15] https://zenn.dev/okikusan/articles/9abe5e6d542d1b [16] https://datachemeng.com/decide_machine_learning_model_for_design_evaluation_interpretation/ [17] https://ai-compass.weeybrid.co.jp/learning/data-leakage-a-pitfall-in-machine-learning-2/ [18] https://qiita.com/s_katagiri/items/7f06ca85f851e0a50516 [19] https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/APPI_QA/ [20] https://www.nstac.go.jp/use/archives/anonymity/※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
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