
1. 背景と動機付け
1.3 故障発生前に分かる兆候として音に注目する理由
現場で機械の異常を早く見つけるには、目で見る、触って温度を感じる、鼻でにおいを嗅ぐ、といった基本的な観察に加えて、耳で「音」を聴き分けることがとても有効である。音は、機械の内部で起きている摩耗や衝突、こすれ、ガタつきといった現象が外に現れたもので、外装を開けなくても状況の変化に気づける利点がある。加えて、マイクや超音波用のアコースティックセンサーなどの計測機器で音を数値として扱えるため、経験だけに頼らない客観的な監視が可能になる。[1][2][3][4][5][6]
音に注目する第一の理由は、「異常の始まりが高い周波数の音として最初に現れることが多い」からである。人の耳に聞こえる音はおおよそ20Hz〜20kHzだが、この上の領域にある超音波(20kHz超)や、材料の中を伝わる微小な弾性波(アコースティック・エミッション:AE)は、ごく初期の微細な傷や摩耗、き裂の進展で発生する。回転機の例では、軸受の転走面にごく小さな損傷ができると、まだ可聴域の「異音」や全体の「振動」としてははっきり出ない段階でも、超音波やAEとして兆候が現れることが知られている。このため、AEや超音波を拾えるセンサーは、末期の大きな振動の前に早期検知できる可能性が高い。[7][8][4][5][9]
第二の理由は、「音は接触・衝撃・摩擦といった故障原因の物理現象に直結している」ため、状態変化の意味づけがしやすいことである。例えば、玉やころが転走路の欠陥に当たると周期的な衝撃音の成分が増え、潤滑が悪化すると高周波の擦過音が強まる、といった典型的なパターンがある。AE法では、材料内部の微小な割れや塑性変形に伴う弾性波を直接とらえられるため、き裂や摩耗という原因側の出来事に近い情報を拾える点が大きな強みである。こうした「原因に近い信号」を監視できれば、温度上昇や大きな振動といった結果側の変化を待たずに、早めの手当てにつなげやすくなる。[2][8][4][5][9][6][7]
第三に、「音は非接触または簡易な取り付けで広範囲を見張れる」現実的なメリットがある。振動センサーは筐体に取り付けやすく運用性に優れるが、音響センサーも空間の一点に設置して複数機器をモニタする、といった配置の自由度を確保しやすい場面がある。特に超音波の指向性を活かしたリーク(圧縮空気やガスの漏えい)検知や、配管内の詰まりの兆候把握では、音の活用が有効とされる。このように、アクセスしづらい対象や多数の設備をまとめて監視したい場合に、音は現実的な選択肢になりやすい。[10][4][5][9][2]
もちろん、音には課題もある。環境ノイズが多い現場では周囲の騒音にまぎれてしまい、可聴域の異常音だけに頼ると見逃しが増える。この点で、より高周波を扱う超音波やAEは、周囲雑音の影響を受けにくく異常の抽出に向くとされるが、センサーの取り付け位置や伝搬経路の確保、カップリング材の使用など、測定の作法が重要になる。AEセンサーは対象への密着が必要で、音響的な経路が確立されていないと感度が十分に出ないため、位置選定と取り付け品質が成否を分ける。また、検知のしきい値が高すぎれば兆候を逃し、低すぎれば不要なアラームが増えるため、対象機器と故障モードに応じた設定と検証が不可欠である。[3][8][4][5][9][2][7]
音と振動の関係も整理しておきたい。現場実績では、回転機の監視に最も広く使われているのは振動で、異常の種類ごとに確立した解析手法がある。振動は異常の早期検知指標として強力で、温度より先に兆候が現れやすいという知見が共有されている。一方で、超音波やAEは、振動として顕在化する前段の微小イベントを検知できる余地があるため、さらに早い段階での察知につながりうる。したがって、「振動で広く堅実に」「音(特に超音波・AE)でさらに前倒しに」という組み合わせが、検知の厚みを増すうえで合理的である。[11][12][8][5][13][9][2]
音に基づく監視を実際に進める際は、目的と対象に沿ってセンサーと周波数帯を選ぶことが重要だ。軸受やギアの微小損傷の初期兆候を狙うならAEや超音波領域を扱えるセンサー、周期的な衝撃やアンバランスを広く追うなら振動・可聴音の併用が適している。取り付けでは、AEは対象に密着させ、音響経路を確保すること、空気中超音波は指向性と距離減衰を踏まえたレイアウトとしきい値設定が鍵となる。また、機器ごとに「正常な音の指紋」を収集し、傾向変化を見張ることで環境の影響を相殺しやすくなる。AIを使う場合も、温度や電流など他のデータとあわせて学習させると判別精度が上がり、誤報や見逃しを抑えられる。[8][14][5][2][3][7]
音に注目する実務上の効果は、次の三点に集約できる。第一に、兆候の早期把握により、計画停止へ置き換えてダウンタイムを短縮できる。第二に、摩耗の段階で手を打てるため、部品を「使い切ってから」交換しやすく、過剰整備を避けられる。第三に、異常時の特徴音から原因を推定し、点検範囲を絞って復旧時間を短くできる。これらは安全性の向上にもつながり、焦りによる無理な再稼働や二次災害のリスクを下げることができる。[5][6][2][3][8][10]
最後に、音は人の感覚に訴える直観的な指標でもある。熟練者は日常の「いつもと違う音」に敏感で、早い段階で違和感を拾ってきた歴史がある。その経験知をセンサーで数値化し、誰でも扱える基準に落とし込むことで、経験の継承と客観性の両立が可能になる。音に注目する理由は、初期兆候に強く、原因に近い現象を捉えやすく、運用面の自由度も得られるという、理屈と実務の双方に裏づけがあるからだ。振動や温度、電流などと組み合わせれば、さらに堅牢な監視体制が築ける。現実的な一歩としては、重要な回転機から、可聴音・振動・超音波の三層で「正常ベースライン」を集め、環境に合わせたしきい値を段階的に調整していく進め方が効果的である。[14][6][1][2][3][8][5] [1] https://monoto.co.jp/sp-iot-sensor/
[2] https://www.fujielectric.co.jp/about/column/detail/fa_09.html [3] https://jpn.nec.com/solution/dotdata/tips/failure-prediction/index.html [4] https://www.inrevium.com/pickup/aesensor/ [5] https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2310/02/news001.html [6] https://www.thk.com/brand/omniedge/jp/useful/post_6.html [7] https://metoree.com/categories/2129/ [8] https://www.juntsu.co.jp/setsubisindan/sindan_kaisetsu2.php [9] https://www.jsndi.jp/bulletin/J_01_Jun18.html [10] https://solution.murata.com/ja-jp/service/wireless-sensor/manufacturing-industry-dx/predictive-maintenance/ [11] https://www.takagi-c.com/product-search/2021/10/06/542 [12] https://we-are-imv.com/support/after/mailmagazine/item/872/ [13] https://core.ac.uk/download/pdf/286937074.pdf [14] https://axel.as-1.co.jp/contents/oc/predictive_maintenance [15] https://kyutech.repo.nii.ac.jp/record/6601/files/sei_k_361.pdf [16] https://www.j-techno.co.jp/seminar/seminar-75794/ [17] https://products.kanaden.co.jp/labo/predictive/predictive_1/ [18] https://www.mri-jma.go.jp/Publish/AnnualReport/2023/Annual_report2023_2.pdf [19] https://newji.ai/procurement-purchasing/fundamentals-of-acoustic-emission-ae-method-and-its-application-in-diagnosing-rotating-machinery-equipment/[20] https://mentena.biz/insight/preventive_maintenance/※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
※本ページの内容は、個人的な学習および情報整理を目的として提供しているものであり、その正確性、完全性、有用性等についていかなる保証も行いません。本ページの情報を利用したこと、または利用できなかったことによって発生した損害(直接的・間接的・特別・偶発的・結果的損害を含みますが、これらに限りません)について、当方は一切責任を負いません。ご利用は利用者ご自身の責任でお願いいたします。