
6. 故障予知のアプローチ
6.4 分類器による正常/異常判定
分類器による正常/異常判定は、観測データから計算した特徴量を入力し、「正常」と「異常」のどちらかを出力する仕組みを学習させて用いる方法である。根本の発想はシンプルで、過去データに含まれる正常・異常の例(ラベル)を手がかりに、両者を最もよく区別できる境界や規則を見つける、というものである。このやり方は、十分な量と質のラベルがあるときに特に強く、目標に合う評価指標で性能を測りながら、現場の許容に合わせて判定のしきい値を調整する運用が肝心になる。[1][2][3][4]
まず、分類器とは何かを直観でおさえる。分類器は、入力されたベクトル(例:RMS、バンドエネルギー、ゼロ交差率、スペクトル重心などの組)に対し、「どちらのクラスらしいか」のスコアを出す関数だと考えるとよい。学習では、既知のラベル付きデータに対して誤りが小さくなるように内部のパラメータを調整する。ロジスティック回帰やサポートベクターマシン(SVM)、決定木系、勾配ブースティング、ニューラルネットなどが代表で、どれを選ぶかはデータ量・特徴の性質・説明性の要求で決まる。異常検知の文脈では、少数しかない異常をどう扱うかが問題になるため、評価指標やデータの不均衡対策がとりわけ重要になる。[5][2][3][6][7][1]
次に、評価の考え方をわかりやすく整理する。正常/異常のような二値分類では、正しく異常を当てた割合(再現率)、異常と判定したもののうち本当に異常だった割合(適合率)、そのバランスを測るF1スコア、そして全体の閾値依存性を俯瞰する曲線指標(ROC曲線・PR曲線)がよく用いられる。特に不均衡データ(正常が大多数、異常がごく少数)では、正解率は当てにならず、PR曲線やその面積(AUPRC)を重視するのが定石である。理由は、PR曲線が少数派(陽性=異常)の適合率・再現率を直接反映し、不均衡の影響を評価にきちんと映すからである。一方、ROC曲線(感度と偽陽性率)は一般性の高い比較に向くが、不均衡下では差が見えにくい場合があるため、両者を見比べつつ最終判断に活用するのが現実的だ。[2][3][4][7][5]
判定の「しきい値」設計は実運用の要である。多くの分類器は「異常らしさ」の連続スコアを返すため、どこで線を引くかで感度(見逃しの少なさ)と特異度(誤警報の少なさ)がトレードオフになる。一般論として、しきい値を下げると再現率は上がるが偽陽性(誤警報)が増え、しきい値を上げるとその逆になる。現場での意思決定は、見逃し(偽陰性)と誤警報(偽陽性)のコストを比較して「総合的なリスクが最小となる」点を選ぶ、という方針で定めるとよい。評価段階ではROCやPRの曲線上から、目的の再現率下限を満たしつつ適合率を最大化する点を候補にし、検証データで安定性を確かめる流れが実務的である。[8][4][7][5][2]
データ不均衡への備えも欠かせない。不均衡が大きいほど、ベースラインの正解率は簡単に高く見えてしまうため、再学習やチューニングではF1やAUPRCを重視し、必要に応じてクラス重み(少数クラスの誤りへの重みを大きくする)やサンプリング(多数派の間引き、少数派の合成)を用いる。評価でも層化分割を徹底し、各分割で異常が適切に含まれるようにする。チューニング時の評価指標の選び方は結果に大きく響くため、特に表現力の高いモデルほど、PR系の指標で整合的に最適化するのが望ましい。[6][2]
ラベルの観点からの実際論にも触れておく。十分な異常ラベルが確保できる分野(目視の外観検査など)では、教師あり学習の分類器で高性能な正常/異常判定を実現しやすい。一方、異常ラベルが乏しい場合は、正常だけで学習する手法(例:オートエンコーダで正常を再構成し、誤差で異常度を測る)と組み合わせ、疑わしい候補を抽出→人が確認→ラベル補充→分類器を更新、といった段階的な運用が現実的である。この「正常を起点に異常候補を炙り出す→教師ありへ接続する」設計は、ラベルの希少さに強い流れとして多くの解説で示されている。[9][10][11][12][1]
導入の手順を具体化する。1) 目的と指標を決める:見逃し優先か、誤警報抑制か、両者のバランスかを合意し、F1・PR曲線(AUPRC)・ROC(AUC)など評価指標を先に決める。2) データ整備:ウィンドウ分割、特徴量抽出、欠損処理、正規化を実施し、学習・検証・テストに分割(層化を推奨)。3) ベースライン構築:単純なモデル(ロジスティック回帰、ツリー系)で性能と重要度を把握、クラス重みやしきい値調整を試す。4) 高性能化:SVMや勾配ブースティング、必要に応じてCNN/AEなどを比較し、PR系指標を用いてハイパラ探索と不均衡対策を行う。5) 閾値決定:PR/ROC上で候補点を選び、運用コスト前提で最終閾値を決定、感度・特異度のトレードオフを文書化する。6) 維持更新:分布変化(データ漂移)を監視し、しきい値・モデル・特徴の定期見直しを計画する。[10][3][4][7][9][1][2][8][6]
現場運用のコツをいくつか。- 二段構え:前段で軽量な異常候補抽出(しきい値、ルール、正常学習)、後段で分類器の精査という流れにすると、計算資源と誤報のバランスが取りやすい。- 説明可能性:重要特徴の可視化(SHAP等)や、波形・スペクトログラムの根拠表示を添えると、現場合意が得やすい。- 閾値の見直し:季節・負荷・ライン変更などの条件差で適正閾値は動くため、条件別の閾値テーブルや自動調整の仕組みを持つ。- テスト設計:完全に未見の期間・ライン・機体での再現評価を入れ、真の汎化性能を確認する(層化だけでなく時系列・グループ分割も検討)。[4][10][1][2][8]
最後に、よくある失敗と対処を要点でまとめる。- 正解率の罠:不均衡で高く見えるため、F1やAUPRCを主指標に変更する。- しきい値の固定化:運用コストに応じた再現率・適合率のバランスで定期調整する。- 不均衡対策の不足:クラス重み・再サンプリング・適切な指標最適化を組み込む。- ラベル不足の放置:正常学習や再構成誤差で候補抽出→人の確認→教師あり更新のループを設ける。- データ漂移の無視:分布監視と再学習計画を運用要件に組み込む。[3][12][10][1][5][2][8][4][6]
分類器による正常/異常判定は、十分なラベルと適切な評価・閾値設計が揃えば、現場要件に合わせて感度と特異度を制御できる強力な枠組みである。特に不均衡データではPR曲線・F1を重視し、誤警報と見逃しのコストを踏まえて閾値を運用設計に接続することが成功の鍵になる。ラベルが乏しい局面では正常学習や再構成誤差で補い、検知・確認・学習の循環で精度を段階的に引き上げるのが現実的である。[12][10][1][5][2][4] [1] https://www.skillupai.com/blog/tech/about-anomaly-detection/
[2] https://tech-blog.optim.co.jp/entry/2021/05/31/100000 [3] https://www.hrl.jp/post/%E7%B2%BE%E5%BA%A6%E6%8C%87%E6%A8%99%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%97%E3%81%A6 [4] https://jeaweb.jp/files/about_epi_research/contest2016_1.pdf [5] https://devblog.thebase.in/entry/2024/12/23/110000 [6] https://qiita.com/dcm_yukimasa-kaneda/items/5eaadbdeec10d92020c6 [7] https://www.codexa.net/ml-evaluation-cls/ [8] https://www.icrweb.jp/mod/resource/view.php?id=8783 [9] https://products.sint.co.jp/aisia-ad/blog/deep-learning-vol.4 [10] https://products.sint.co.jp/aisia-ad/blog/deep-learning-vol.3 [11] https://saiteki.works/blog/machine-learning-abnormality-detection/ [12] https://ai-scholar.tech/error-detection/pretrained_features [13] https://www.skillupai.com/blog/tech/ad-tips-1/ [14] https://aismiley.co.jp/ai_news/what-is-error-detection-that-detects-errors-in-unstructured-data-such-as-documents-and-website-logs/ [15] https://ushitora.net/archives/257 [16] https://note.com/itomakoto/n/n89f47df679d8 [17] https://www.brains-tech.co.jp/impulse/blog/anomaly-detection-basics/ [18] https://qiita.com/lilacs/items/703314640ac790e4a6c5 [19] https://qiita.com/shinmura0/items/06d81c72601c7578c6d3 [20] https://www.mlit.go.jp/road/tech/jigo/r03/pdf/report30-2.pdf※本ページは、AIの活用や研究に関連する原理・機器・デバイスについて学ぶために、個人的に整理・記述しているものです。内容には誤りや見落としが含まれている可能性もありますので、もしお気づきの点やご助言等ございましたら、ご連絡いただけますと幸いです。
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