『音による故障予知の教科書たたき台:5.7 RMS(実効値)』LLMと一緒に書いてみた—AIが導く研究メモ

5. 特徴量抽出  

5.7 RMS(実効値)

RMS(実効値)は、時間とともにプラスとマイナスに揺れる信号の「平均的な大きさ(エネルギーの大きさ)」を一つの数で表す方法である。やり方はシンプルで、各瞬間の値を二乗して平均し、その平方根を取るだけでよい。二乗するのは、プラスとマイナスを同じ「大きさ」として扱うためで、平均だけでは相殺されてしまう波でも、RMSなら実際の強さを正しく表せる。数式で書くと、サンプル列x1,…,xNのRMSは√{(x1^2+…+xN^2)/N}となる。連続信号では一定時間の二乗平均の平方根で定義され、周期信号なら1周期で評価しても同じ結果になる。[1][2][3]

RMSが便利なのは、電圧や加速度のような振動量の「実効的な強さ」を、時間波形の形に依らず一つのスカラーで比べられるからである。たとえば正弦波のRMSは振幅/√2となり、ピークや平均絶対値とは異なるが、回路や音のエネルギー感を表す尺度として実務に合致している。音響でもRMSは「平均エネルギー」を示す指標として、ピーク値とは違う“聴かれ方の大きさ”の近似に使われることが多い。[4][3][5][6][1]

標準偏差との関係を押さえると理解が深まる。標準偏差は「平均からのズレのRMS」なので、平均が0の信号ではRMSと標準偏差は一致する。一般には、RMS^2(全体の二乗平均)=平均^2+標準偏差^2という関係が成り立つ。この関係は、直流成分(平均)と交流成分(揺れの大きさ)を切り分ける際に役立ち、例えばDCオフセットを除きたいなら「平均0化→標準偏差=AC成分のRMS」と解釈できる。[7][8][9][1]

RMSは時間領域だけでなく周波数領域とも直結している。パーセバルの定理により、時間信号の二乗平均(RMS^2)と、周波数スペクトルのパワー(密度)を周波数で積分した量が一致する。実務上は、FFTで得たスペクトルの二乗の和からRMSを再計算でき、適切な正規化(片側/両側、窓補正、分解能幅の扱い)を整えれば、時間側と周波数側でエネルギーが一致することが確認できる。この性質は、PSD(パワースペクトル密度)を帯域積分してバンドRMS^2を評価する時や、FFTから全体RMSを検証する時の拠り所になる。[10][11][12]

RMSを現場でどう使うかを具体化する。まず、短時間フレーミング(一定長の窓)で区切り、各窓のRMSを求めて時系列にすれば、全体の「揺れの強さ」の変化が見える。機械の摩耗や潤滑悪化で高周波の微振動が増えると、窓RMSがじわじわ上がる傾向が出ることが多い。ピーク(最大値)と違って、突発的な1点だけでは大きく変わらないため、安定した強度指標としてトレンド監視に向く。また、周波数領域のPSDを1Hzあたりに正規化した上で、対象帯域を積分すると、その帯域のRMS^2が得られる。全体RMSではなく「この帯域だけのRMS」を監視すれば、原因帯域への感度を高められる。[13][2][11][12][4][10]

計算・設計のポイントは次の通りである。1) 窓長の選択:窓が短いと時間変化に敏感だが値がばらつきやすく、長いと安定するが変化に鈍くなる。目的(早期検知か安定監視か)で決める。2) 基線(平均)の扱い:DCを含めた総合RMSを見たいのか、ACだけを見たいのかを決める。ACのみなら窓ごとに平均を引いてからRMSをとると標準偏差と一致する。3) 周波数側の整合:FFTやPSDからRMS^2を得るときは、片側スペクトルの2倍係数、分解能Δfでの積分、窓の等価雑音帯域幅(ENBW)補正を誤らない。これにより時間側RMSと一致が取りやすくなる。4) 指標の併用:ピーク、RMS、LUFS(聴感ラウドネス)、帯域RMSなどを合わせて解釈すると、突発と持続の両面が見える。[2][11][8][12][1][13][4][10][7]

RMSの読み方にはいくつかの定石がある。- 上昇傾向:同じ運転条件で窓RMSが漸増するのは、摩耗・緩み・潤滑劣化などで振動エネルギーが増えているサインの一つである。- 変動幅:平均RMSが同じでも、窓間のばらつきが増える場合は運転が不安定化している可能性がある。- 帯域別:全体RMSでは環境騒音や低周波ゆらぎの影響を受けやすい。PSDから「高周波帯のRMS」を別に監視すると初期異常に敏感になることが多い。[11][12][10]

RMSと他指標の違いも明確にしておく。平均絶対値は外れ値に対してややロバストだが、物理的なエネルギー(2乗に比例)との対応はRMSの方が直接的である。ピーク値は衝撃に敏感だが、持続的な小刻み振動の増加はRMSの方が捉えやすい。標準偏差は平均0化したRMSであり、DCの影響を避けたい評価では標準偏差を使うのが合理的である。[9][1][7]

実装の手順例をまとめる。1) データ取得と品質点検(クリップなし、サンプリング設定)。2) 窓長とホップの決定(例:数百ms、50%重なり)。3) 目的に応じて平均引き(AC成分のみ評価)を選択。4) 各窓のRMS=√(平均二乗)を計算。5) 必要に応じてPSDをWelch法で推定し、対象帯域の積分で帯域RMS^2を算出(Δfと窓補正に注意)。6) 時系列のRMSトレンドを可視化し、正常レンジ(平均±しきい値)で逸脱を監視する。[13][10][11]

最後に、誤解しやすい点を補足する。- 正弦波のRMSは振幅/√2だが、三角波や鋸歯状波では係数が異なる。波形形状が変わればピークとRMSの関係も変わるため、ピークから一律換算するのは危険である。- 複数の独立した成分(互いに直交)が重なれば、RMS^2は各RMS^2の和になる。ノイズ源の合成や帯域RMSの合成で便利な性質である。- FFTからRMSを出すとき、ゼロパディングで周波数目盛りは細かく見えるが、RMS^2の積分値に本質的な変化はない。重要なのは正しいスケーリングである。[14][12][1][10][11]

RMSは、「波形がどれほどのエネルギーで揺れているか」を安定して表す基礎指標であり、時間側の簡便な計算と、周波数側の厳密な整合(パーセバル)を両立できる。窓処理でトレンドをとり、必要に応じて帯域RMSに分解する設計をとれば、故障予知において変化の早期検出と誤警報低減の両方に寄与する。

[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Root_mean_square

[2] https://www.ni.com/docs/en-US/bundle/labwindows-cvi/page/advancedanalysisconcepts/what_is_rms_level.html

[3] https://barbegenerativediary.com/en/sounds/rms-root-mean-square-openframeworks/

[4] https://www.peak-studios.de/en/rms/

[5] https://aimdynamics.com/what-is-root-mean-square

[6] https://www.sciencedirect.com/topics/engineering/root-mean-square-value

[7] https://www.allaboutcircuits.com/technical-articles/how-standard-deviations-relates-rms-values/

[8] https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/dsp-book/dsp_book_Ch2.pdf

[9] https://www.dspguide.com/ch2/2.htm

[10] https://blog.prosig.com/2015/01/06/rms-of-time-history-and-fft-spectrum/

[11] https://xrft.readthedocs.io/en/latest/Parseval_example.html

[12] https://www.toyo.co.jp/mecha/faq/detail/id=2879

[13] https://www.sciencedirect.com/topics/engineering/root-mean-square

[14] https://resources.pcb.cadence.com/blog/2019-what-is-rms-noise-and-how-does-it-compare-to-the-standard-deviation

[15] https://www.shinyei-tm.co.jp/pdf/20230314stc.pdf

[16] https://www.reddit.com/r/DSP/comments/267tb0/whats_the_difference_between_finding_the_rms_of_a/

[17] https://www.onosokki.co.jp/HP-WK/eMM_back/emm122.pdf

[18] https://root-forum.cern.ch/t/meaning-significance-of-rms/6728

[19] https://pulsar.sternwarte.uni-erlangen.de/black-hole/2ndschool/talks/amsterdam_ITNschool_2010.pdf

[20] https://en.wikipedia.org/wiki/Root_mean_square_deviation

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